星見る囚人

楽しい世界にむけ脱獄進行中

【同棲日記】ふたりぐらしは突然に 『悪夢のあと』

※かなり重い話なので、閲覧注意です

 

 

繰り返し同じ夢をみる。

つらくて苦しくて、泣きながら耐えている子どもの私を、今の私が眺めている夢。

ときには私が子どもに戻っていて、過去をなぞるような夢をみることもある。

そんなとき、きまって自分の悲鳴で目が覚めた。

 

あの日々で受けた傷を、いつまでも切り離せないでいる。

 

こどものころの悪夢

「ママとパパ、どっちのほうが好き?」

 

両親と向き合う形で、幼い私が紙パックのジュースを飲んでいる。

 

「?どっちもすきよ?」

「どっちかしか無理なの。どっちと一緒にいたい?」

「おい、いい加減にしろ!自分が何してるかわかってんのか!」

 

父が母に詰め寄る。母は目に涙をためつつ、父をキッとにらんだ。

 

「そうやってすぐ怒るとこが嫌なの!やっぱりあなたがこの子を育てるなんて無理よ!ね、ママのほうがいいでしょ?ママと一緒にいたいよね?」

「今までロクに子育てしてこなかったくせに、お前こそ育てられるわけないだろ!この子は俺が育てる!」

「何よ!」

 

ふたりはつかみ合いになった。小さい私は、震えながらふたりを交互に見つめるしかない。

そのうち、父の手が母の顔を強く打った。
充血して、とめどなく涙があふれる目を私に向けて、母は私の肩にすがりつく。赤くはれた頬が痛々しかった。

 

「ねえ、ママと一緒にいてくれるよね…?」

 

 このひとは、ひとりでは生きていけない。幼い心でそう悟った私は、うなずくしかなかった。
このとき、父がどんな顔をしていたのか、思い出せない。

 

少女のころの悪夢

夏休みに入ったばかりの暑い日。

 

母が仕事に出て、家でひとりで過ごしていたところに、母の彼氏がやってきた。私の面倒をみてくれと、母に言われて来たと言う。

彼氏ができてから、母はほとんど私に無関心になっていた。

それなのに変だなとは思ったものの、合鍵で入ってきたその男を、嫌々迎え入れた。

 

力で敵わなすぎて、滑稽なほどだった。
あっという間に机に押し付けられ、体をこじ開けられた。

 

気の早いセミの声と肉がぶつかる音が、部屋に響いている。窓から見える空は、嫌になるほど青くて、この部屋だけが別世界のようだった。

勝手に漏れ出る声に、自分の身体が女であることを初めて実感する。こんな行為でも反応する自分に、失望を覚えた。

 

(体なんて…行為なんて、こんなものか)

 

ただ、それ以来、私は家にはあまり寄り付かなくなった。

 忍び込むように深夜に帰宅する日々が続いた。しかし、狭い家だ。帰宅すればすぐにわかる。

 

男と私の間にあったことを察した母は、私を敵対視するようになった。

気に入らないことがあると私を正座させ、2,3時間は説教をした。平手で打ってみたり蹴りを入れてみたりしても、母の怒りはなかなか収まらなかった。

 

「女の子がこんな時間までフラフラして!ひとに見られたら私が恥ずかしいやないの!どうしてあんたはいつも言うこと聞かないの!あんたにどんだけお金かけてきたと思ってんの?!せっかく引き取ってあげたのに、少しは親孝行しようとか思わないわけ?!

もういっつも、いっつも!あんたのせいで私の幸せがなくなってく!あのひとも、あんたがいるから私と結婚してくれないのよ!なんで私ばっかり…。もう…いっそのこと帰ってこなきゃいいのに!!!」

 

そう言ってはいたが、いざ私が家に帰らなくても結果は同じだった。

私を見つけ出しては捕まえ殴り、そして最後は泣いた。散々罵倒したあとで、「ママを捨てないで」と泣いてすがった。

結局はひとりで生きていけないひとなのだ。 

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母の彼氏に体を開かれたときも、母に殴られたときも、死ぬかもしれないと思いつつも恐怖はなかった。

泣いてすがる母の手の冷たさのほうが、ずっと恐ろしかった。

 

「こわかったね、もう大丈夫」

「おい、起きろ!!!」

「っ!!?!」

 

とっさに身体を丸めた。ぎゅっと力を込めて固まる私の背に、大きな手が触れる。

 

「俺やって。…大丈夫か」

 

聞き慣れた彼の声だ。少しずつ、身体の力が抜けていく。

 

「めっちゃうなされてて、かと思ったら急に叫んだからビビったわ」

「え、マジか…ごめん……」

 

完全に脱力した私は、彼のほうに向き直った。汗で額に髪が張り付く。
彼を見上げると、労わるような瞳と目があった。

 

「怖かったな」

「え?」

「やから、怖かったなって。俺がおるさかい、もう大丈夫やで」

 

手でぱたぱたと私をあおぎながら、穏やかな声で彼はそう言った。

悪夢で目覚めたあと、そんなことを言われたのは初めてだ。でも、その一言でひどく安心できた。もう終わったことなんだ、もう大丈夫…。

 

「こんなとき、どんな顔をしたらいいか、わからないの…」

「笑えばいいと思うよ」

 

私の頭を撫でて、彼がベッドから起き上がってキッチンのほうへ行く。

戻ってきた彼は、片手で私にお茶の入ったグラスを差し出した。もう片方にはタオルと私の着替えの服を持っている。

受け取ったグラスの冷たさに、身体がぶるりと震えた。

 

(まるで、母さんの…)

 

私は頭を振って浮かびかけたイメージを振り払った。のどに流し込んだ冷たいお茶が、胃まで滑り落ちるのがわかる。

 

「ん、これ着替えーな」

「…ありがとう」

 

タオルを受け取って着替えている私の横に、仕事は終わったと言うように彼がごろんと寝転んだ。

着替え終わった私も、その腕に寝転ぶ。

 

「……しんどかったな」

「うん…でも、大丈夫」

 

悪夢のあと、ひとりじゃあない。

「怖かったね」と言って、悪夢を終わらせてくれる。

私はきっと、そういうひとをずっと探していたんだ。

 

「…ごめんな、起こして」

「ほーんま手がかかるわあ」

「ごめん……」

 

それ以外何も言えない私を、彼はぎゅっと抱きしめた。

 

「…一緒におるから、大丈夫やで。ちゃんと守るから」

「うん…ありがと……ありがとうね」

 

腕が濡れても、彼はずっと私を抱きしめて優しく背中を叩いていた。

悪夢のあとで、ひとりぼっちで泣いていた私は、もういない。

 

 

 

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to be continued➸